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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)90号 判決

英国ロンドン市エス・ダブリュー七、一LN、

ナイツブリッジ、プリンス・ゲイト、

キングストン・ハウス・ノース二六

原告

リチャード・デイ・スチュワート

右訴訟代理人弁護士

福田彊

土谷伸一郎

中川康生

山川博光

福田彊訴訟復代理人弁護士

山田善一

東京都千代田区神田錦町三の三

被告

麹町税務署長

山下文義

右指定代理人

石井宏治

奥原満雄

中村政雄

金田晃

牧憲郎

主文

一  被告が昭和四六年一月八日付けでした原告の昭和四一年分所得税の決定及び無申告加算税賦課決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

主文同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、英国(グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国。以下同じ。)に居住しており、所得税法(昭和四二年法律第二〇号による改正前のもの。以下同じ。)二条一項五号所定の非居住者であるが、被告は、原告の昭和四一年分所得税について、昭和四六年一月八日付けで、総所得金額を一九五、六二五、三〇〇円、所得税額を一三七、四五二、八〇〇円とする決定を行うとともに、無申告加算税一三、七四五、二〇〇円の賦課決定を行った。原告は、右の決定及び賦課決定(以下「本件課税処分」という。)を不服として、同年三月一一日被告に対し異議の申立てを行ったが、三月を経過しても異議申立てについての決定がなかったため、同年九月二日国税不服審判所長に対し審査請求を行ったところ、昭和四八年三月一二日付けで請求棄却の決定を受けた。

2  しかしながら、原告は日本国政府に対し納税義務を負わないから、本件課税処分は取り消されるべきである。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認め、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告は、昭和四一年七月一八日現在において、所得税法二条一項六号所定の内国法人たる株式会社セガ・エンタープライゼス(以下「セガ社」という。)の株式(一株の金額五〇〇円)を一七二、一五八株所有していた。セガ社の株主名簿に記載された発行済株式総数、株主及びその持株数の推移は別表一記載のとおりであり、右株主名簿の記載は真実の発行済株式総数、株主及びその持株数を表示したものである。これによると、原告の右株式一七二、一五八株は、セガ社の発行済株式総数三〇〇、〇六〇株の約五七%(パーセント。以下同じ。)に相当するところ、原告は、右株式一七二、一五八株のうち、同年八月五日に九〇、六七四株、同年一〇月一一日に二四、〇九八株、合計一一四、七七二株(セガ社の発行済株式総数三〇〇、〇六〇株の約三八%に相当。以下「本件株式」という。)をマーチン・ジェイ・ブロムレイ(以下「ブロムレイ」という。)に譲渡した。

2  所得税法五条二項の規定によれば、非居住者は、同法一六一条に規定する国内源泉所得を有するときは、同法により、所得税を納める義務がある。そして、同法一六一条一号、所得税法施行令(昭和四二年政令第一〇五号による改正前のもの。以下同じ。)二八〇条二項四号、同法九条一項一一号ハ及び同施行令二八条の規定によれば、非居住者が内国法人の発行する株式を譲渡した場合、当該非居住者が、「その年以前三年内のいずれかの時において、その法人の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を有し」、「その年において、その法人の発行済株式総数の一〇%以上に相当する数の株式を譲渡し」、かつ、「その年以前三年内において、その法人の発行済株式総数の二五%以上に相当する数の株式を譲渡したとき」は、右株式譲渡による所得は、前記国内源泉所得として課税の対象となる。また、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府との間の条約(昭和三八年条約第二〇号。以下「日英租税条約」という。)九条(2)(d)は、英国居住者が日本の内国法人の発行する株式を譲渡した場合、当該英国居住者が、「その年のいずれかの時において、その法人の発行済株式総数の二五%以上に相当する数の株式を有し」、かつ、「その年において、その法人の発行済株式総数の五%以上に相当する数の株式を譲渡したとき」は、右株式譲渡による所得に対し日本国政府が課税することを認めている。原告は、前記のとおり、昭和四一年七月一八日現在において、内国法人であるセガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式一七二、一五八株を所有し、かつ、同年八月五日及び同年一〇月一一日に、セガ社の発行済株式総数の二五%以上に相当する数の株式合計一一四、七七二株をブロムレイに譲渡したものであるから、右株式譲渡による所得は、課税の対象たる国内源泉所得に該当し、原告は、所得税を納める義務を負うものである。しかるに、原告において所得税の確定申告を怠ったため、被告は、本件課税処分を行ったものである。

3  非居住者の国内源泉所得について課する所得税の課税標準及び所得税の額は、所得税法第二編第一章ないし第三章等の規定に準じて計算する(同法一六五条)ところ、原告は本件株式を一株当たり五〇〇円で譲渡したとしているが、本件株式の時価は五〇〇円をはるかに超えるから、所得税法五九条一項の規定により、譲渡価額は時価によって算定することになる。そして、本件株式の場合、証券市場における市場価額が存在せず、参考とすべき取引例も存在しないため、被告は、昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」で定める類似業種比準方式を採用し、本件株式の時価を求めた。右の類似業種比準方式は、基本的には、一株当たりの配当金額、利益金額及び純資産価額について、それぞれ評価会社と類似業種との比率を求め、評価時期の類似業種の平均株価にこの比率を乗ずることによって、三つの価額を算出し、この三つの価額の平均値をもって評価会社の株価とするものである。市場性を持つ株式の価額は、係数化できない景気の動向や、思惑、人気等の諸条件に左右されるものではあるが、結局その根底にあって人気を作り、思惑を生み出すものは、その会社の財産的健全性(純資産価額)、業績の安定性(利益金額)及びそれにより期待される配当の確実性(配当金額)である。類似業種比準方式は、右の係数化可能な三つの要素の数値を基礎に、市場における諸条件の影響を受けた結果として形成された現実の株価に比準することにより、直接把握し得ない他の諸条件の影響も併せ含む取引相場のない株式の株価を求めようとするものであり、合理的な評価方法である。更に、右の類似業種比準方式は、単に三つの要素の比率の平均によるのではなく、三つの要素の比率に常数「3」を加算し、それを常数「6」で除すこととしている。これは、株価に影響を与えるのは三要素のみではなく、その他の係数化できない要素も考えられること、流通性の少ない非上場株式を上場株式に比準して評価すること等を考慮して、三要素のウエイトを五〇%に低下させ、評価の安全性を図るためである。そして、セガ社は、主としてジェークボックス、コイン・ゲーム・マシン等の室内遊戯機械の製造販売を行う会社であり、昭和四一年六月六日付け直資三-一〇、直審(資)二国税庁長官通達「昭和四一年分相続税財産評価基準について」、同年一〇月一七日付け直資三-一八国税庁長官通達「昭和四一年七月分および八月分の業種別平均株価について」及び同年一二月二〇日付け直資三-二二国税庁長官通達「昭和四一年九月分および一〇月分の業種別平均株価について」に掲げる業種のうち「機械製造業」の中の「その他機械製造業」に該当する。以上により本件株式の一株当たりの時価を求めると、別表三及び四記載のとおり、昭和四一年八月に譲渡した株式については一株当たり三、七九七円、同年一〇月に譲渡した株式については一株当たり三、六七七円と算出される。

4  原告は、本件株式を昭和四一年八月に九〇、六七四株、同年一〇月に二四、〇九八株を譲渡しているから、前者については三、七九七円を、後者については三、六七七円を乗じたうえ合算し、譲渡所得に係る総収入金額を求めると四三二、八九七、五二四円となる。この金額から、原告主張の取得費五七、三八六、〇〇〇円(本件株式一一四、七七二株に券面額五〇〇円を乗じた金額)、有価証券取引税八六、〇七九円及び特別控除額一五〇、〇〇〇円を控除し、譲渡所得の金額を求めると三七五、二七五、四四五円となる。ところで、株式取得の日以後三年を超えてなされた株式譲渡による所得は、その二分の一のみが総所得金額に算入されるところ(所得税法二二条二項)、別表一記載のとおり原告が昭和三五年六月三日に取得した八、〇〇〇株が本件株式に含まれている可能性がある。そこで、右株数に昭和四一年八月における一株当たりの時価三、七九七円を乗じた金額三〇、三七六、〇〇〇円から、原告主張の取得費四、〇〇〇、〇〇〇円(八、〇〇〇株に券面額五〇〇円を乗じた金額)及び有価証券取引税六、〇〇〇円を控除し、右八、〇〇〇株に係る譲渡所得の金額を求めると二六、三七〇、〇〇〇円となる。したがって、原告の総所得金額は、前記譲渡所得の金額三七五、二七五、四四五円から、右二六、三七〇、〇〇〇円の二分の一に相当する金額一三、一八五、〇〇〇円を控除した三六二、〇九〇、四四五円である。

5  本件の所得税の決定は、総所得金額を右三六二、〇九〇、四四五円の範囲内である一九五、六二五、三〇〇円としたものであるから、適法である。また、本件の無申告加算税の賦課決定は、右決定に基づき納付すべき税額一三七、四五二、八〇〇円に一〇〇分の一〇を乗じて計算した一三、七四五、二〇〇円(一〇〇円未満の端数切捨て)を無申告加算税としたもので、国税通則法六六条一項の規定に従った適法な処分である。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張のうち、セガ社の株主名簿に記載された発行済株式総数、株主及びその持株数の推移が別表一のとおりであること、右発行済株式総数が真実のものであること、原告が所得税の確定申告をしなかったこと、別表三及び四記載のとおり、セガ社の昭和四一年五月三一日現在の資本金が一一八、五三〇、〇〇〇円、一株当たりの券面額が五〇〇円、発行済株式総数が二三七、〇六〇株、純資産価額が、一、一三五、六四九、〇〇〇円であり、同日以前一年間の利益金額が三五六、四七八、〇〇〇円、現金配当金額が二七、七六五、〇〇〇円、株式配当株式数が六三、〇〇〇株であることは認めるが、その余は争う。セガ社は、当時、遊戯機械の輸入販売及び賃貸を主たる業務としていたもので、製造販売高は総売上高の四分の一にも満たず、機械製造業とはいい得ない。

五  原告の主張

1  原告が、昭和四一年以前三年内のいずれかの時において、セガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有していた事実はない。したがって、原告が昭和四一年中に本件株式をブロムレイに譲渡したとしても、右譲渡による所得は国内源泉所得に該当せず、課税の対象とならないから、本件課税処分は取り消されるべきである。

(一) アービング・ブロムバーグ(以下「ブロムバーグ」という。)及びその息子のブロムレイは、アメリカ合衆国ハワイのホノルル市においてサービス・ゲームズの名称で多年娯楽機械の製造、販売及び賃貸業を営み、原告を販売員として、レイモンド・ジェイ・レメーヤ(以下「レメーヤ」という。)を技師として雇用していた。右のサービス・ゲームズ(以下「サービス・ゲームズ・ホノルル」という。)には、在日米軍のクラブに設置する娯楽機械の注文が多く寄せられていたが、原告及びレメーヤの二人は、サービス・ゲームズ・ホノルルから独立して日本に移住し、サービス・ゲームズ・ホノルルの娯楽機械を日本において積極的に販売することを計画し、昭和二七年三月来日した。そして、原告及びレメーヤの二人は、レメーヤ・アンド・スチュワートの名称で持分各五〇%のパートナーシップ(組合契約)により右事業を開始した。

(二) 昭和二八年に入り、ブロムバーグ、ブロムレイ、原告及びレメーヤの四人は、平等の持分において右娯楽機械の販売を更に拡大させることを合意し、そのための組織として、パナマ共和国の法律に従い、各平等の持分により、サービス・ゲームズ・インクと称する会社をパナマ市に設立した。そして、右会社(以下「サービス・ゲームズ・インク・パナマ」という。)が娯楽機械を日本に出荷し、レメーヤ・アンド・スチュワートがこれを日本で販売することを約した。その際、日本国内におけるパートナーシップについても、四人平等の持分とすることが話し合われたが、ブロムバーグ及びブロムレイは、日本における事業に正式に参加することを望まなかった。そこで、原告及びレメーヤは、娯楽機械の供給及び財政的援助の継続等、日本における事業についてブロムバーグ及びブロムレイの協力を得るため、この二人に対し、いつでも原告及びレメーヤの日本における事業の各持分の二分の一を出資額で譲渡する旨のオプション(選択権)を供与した。

(三) 原告及びレメーヤのパートナーシップによる事業は拡大し、娯楽機械の輸入販売のほか製造も開始するようになり、二人は会社組織とするのが得策と考え、各五〇%の出資で昭和三二年一月九日サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社を設立した。その後、スコット・エフ・ドッテラー(以下「ドッテラー」という。)が同社の支配人として雇い入れられたが、同人は極めて有能と判断されたので、原告及びレメーヤの二人は、同人を同社に引き止めるため、ブロムバーグ及びブロムレイの同意を得たうえ、昭和三三年ころ各持株の中から同社の発行済株式総数の五%に相当する数の株式をそれぞれドッテラーに譲渡した。その結果、同社の株式は、原告及びレメーヤが各四五%を、ドッテラーが一〇%を所有することになった。

(四) サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社の事業も急速に拡大し、それに伴い労務管理等の問題が発生してきたため、原告、レメーヤ及びドッテラーは、同社を解散させたうえ、娯楽機械の製造を行う会社と、その販売及び賃貸を行う会社をそれぞれ別個に設立することを計画し、昭和三五年五月三一日サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社を解散し、同年六月三日日本娯楽物産株式会社及び日本機械製造株式会社を設立した。両社とも資本金九、〇〇〇、〇〇〇円で設立されたが、日本娯楽物産株式会社はサービス・ゲームズ・ジャパン株式会社の行っていた娯楽機械の販売及び賃貸の事業をその資産とともに引き継ぎ、日本機械製造株式会社はサービス・ゲームズ・ジャパン株式会社の行っていた娯楽機械の製造の事業をその資産とともに引き継いだもので、両社ともその株主は原告(持株八、一〇〇株で発行済株式総数の四五%)、レメーヤ(持株八、一〇〇株で発行済株式総数の四五%)及びドッテラー(持株一、八〇〇株で発行済株式総数の一〇%)の三人であった。しかし、両社とも、その株主名簿には真実の株主が記載されず、従業員や下請会社の代表者らが株主として記載され、原告、レメーヤ及びドッテラーの持株が右従業員や下請会社の代表者の持株として記載された。

(五) その後、原告、レメーヤ及びドッテラーは、経営の合理化を図る等の目的で日本娯楽物産株式会社と日本機械製造株式会社の合併を決意し、昭和三九年六月一五日日本娯楽物産株式会社が日本機械製造株式会社を吸収する形で両社の合併が実現した。合併後の日本娯楽物産株式会社の株式は、原告が七九、二〇〇株で発行済株式総数の四五%、レメーヤが同じく七九、二〇〇株で発行済株式総数の四五%、ドッテラーが一七、六〇〇株で発行済株式総数の一〇%をそれぞれ所有した。

(六) 右合併のころから、原告は、日本における事業から徐々に引退し、家族を伴いカナダへ移住することを決意するに至った。そして、そのころ同じく日本で娯楽機械の事業を行っていたローゼン・エンターブライゼス有限会社の経営者であるデビット・ローゼン及びマサ・ローゼンの夫妻に対し、原告に代わって日本娯楽物産株式会社の経営に参加することを求め、昭和四〇年七月一二日日本娯楽物産株式会社がローゼン・エンターブライゼス有限会社を吸収する形で両社の合併が実現し、日本娯楽物産株式会社は、右合併に伴い商号を株式会社セガ・エンターブライゼス(セガ社)と変更した。

(七) ところで、原告及びレメーヤが日本における事業の各持分の二分の一をブロムバーグ及びブロムレイに対し請求あり次第いつでも取得価額で譲渡する旨のオプションの供与は、その後も維持されてきたが、右四名の関係が極めて親密であったため書面化はされていなかった。しかし、全くの第三者であるローゼン夫妻が事業に参加する話が始まり、また、ブロムバーグ及びブロムレイが原告及びレメーヤの株式を譲り受けることにつき税務上の問題がなくなったことにより、ブロムバーグ及びブロムレイは、昭和三九年末ころ原告及びレメーヤに対し右オプションの供与を書面化するよう要求してきた。右書面化の要求により右オプションの実行される可能性が強まったこと等の理由により、原告及びレメーヤは、日本娯楽物産株式会社の株主名簿を整理し、株主を明確化するとともに、ブロムバーグ及びブロムレイに対する株式の譲渡方法等につき検討し、準備することを迫られることになった。当時の日本の外国為替及び外国貿易管理法三一条の規定によると、居住者(この場合、原告及びレメーヤ)から非居住者(この場合、ブロムバーグ及びブロムレイ)への株式の譲渡には大蔵大臣の許可を必要とし、また、当時の日本政府の政策によれば、日本娯楽物産株式会社のような業種の株式の譲渡について、大蔵大臣の許可を得ることはほとんど不可能であった。しかし、非居住者から非居住者への株式の譲渡であれば、大蔵大臣の許可は不要であった。したがって、カナダに移住し、居住者から非居住者になることになっていた原告の株式譲渡については問題がなかったが、非居住者になる予定のなかったレメーヤの株式譲渡については、何らかの対策が必要であった。そこで考えられたのが、レメーヤの日本娯楽物産株式会社株式七九、二〇〇株のうち右オプションの対象となる三九、六〇〇株(七九、二〇〇株の二分の一)を株主名簿上あらかじめ原告の名義にしておくという方法である。かくして、昭和四〇年七月二日付けで同社の株主名簿に原告の持株が一一八、八〇〇株、レメーヤの持株が三九、六〇〇株、ドッテラーの持株が一七、六〇〇株と記載されるに至った。しかし、原告の真実の持株は七九、二〇〇株で発行済株式総数一七六、〇〇〇株の四五%にすぎず、残り三九、六〇〇株はレメーヤの持株である。

(八) 昭和四〇年一〇月一七日原告がカナダへ移住して非居住者となった後に、原告からブロムレイあての同年一一月四日付け書簡により前記オプションの供与が書面化され、同年一二月一八日ブロムレイから原告あて本件株式購入手付金一〇、〇〇〇ドル(米ドル)が支払われた。右書簡及び手付金の授受は原告とブロムレイの二人によって行われているが、当時レメーヤは日本に居住していたこと、ブロムバーグは重病であったことにより、形式上原告とブロムレイによってなされたにすぎず、実質は四人のためになされたものである。

(九) 日本娯楽物産株式会社が株式会社セガ・エンタープライゼス(セガ社)に商号変更された後の昭和四一年一月一七日及び同年七月一八日株式配当が行われ、原告及びレメーヤの持株はそれぞれ一一四、七七二株となった。そして、原告及びレメーヤは、ブロムバーグ及びブロムレイのオプションの実行により、昭和四一年八月五日九〇、六七四株、同年一〇月一一日二四、〇九八株、合計一一四、七七二株を一株当たり五〇〇円の価額で両名に譲渡したが、右は原告及びレメーヤの各持株の二分の一(五七、三八六株)を譲渡したものである。

(一一) 以上述べてきたセガ社の真実の株主及びその持株数の推移をまとめると、別表二のとおりとなる。これによれば、セガ社が日本娯楽物産株式会社の商号で設立されてから原告らが本件株式の譲渡を行うまで、原告がセガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有したことのないことが明らかというべく、株式名簿の記載にのみ依拠し、原告がセガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有していたことを前提に、本件株式の譲渡による所得を国内源泉所得とした本件課税処分は取り消されるべきである。

2  原告が、昭和四一年中継続して、セガ社の発行済株式総数の二五%以上に相当する数の株式を所有していた事実はない。したがって、本件株式の譲渡による所得については、日英租税条約により租税を免除されるから、本件課税処分は取り消されるべきである。

(一) 日英租税条約九条(1)は、「一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国において資本的資産の譲渡から取得する収益(第八条(3)に規定する金額を除く。)は、当該他方の締約国の租税を免除される。」と規定し、その例外の一として同条(2)(d)は、「一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国の法人の株式の譲渡から取得する収益は、次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課することができる。(ⅰ)譲渡者が保有し、又は所有する株式(他の関係ある者が保有し、又は所有する株式で譲渡者が保有し、又は所有するものとともに合算されるものを含む。)が課税年度又は賦課年度中のいずれかの時において、当該法人の株式資本の総額の二十五パーセント以上であること。(ⅱ)譲渡者及び前記の関係のある者が当該課税年度又は賦課年度中に譲渡した株式の総額が当該法人の株式資本の総額の五パーセント以上であること。」と規定している。しかし、右条文のうち「課税年度又は賦課年度中のいずれかの時において、当該法人の株式資本の総額の二五パーセント以上であること。」とある「いずれかの時において」に対応する英文は「at any time」となっており、文脈から判断すれば「いかなる時点においても」と訳すべきである。したがって、右条文は、「課税年度又は賦課年度中のいかなる時点においても、当該法人の株式資本の総額の二五パーセント以上であること。」と解釈すべきである。右条約に代わるものとして締結された新日英租税条約(昭和四五年条約第二三号)の右条文に対応する部分は、英文「at any time」のままとなっているにもかかわらず、日本文は「いかなる時点においても」となっており、右解釈の正しさを裏付けるものである。

(二) 原告は、昭和四一年一〇月一一日以降はセガ社の株式を五七、三八六株しか所有せず、これはセガ社の発行済株式総数三〇〇、〇六〇株の約一九%にすぎないから、原告が昭和四一年中の「いずれの時点においても」二五%以上の株式を所有していたとはいえない。したがって、本件株式の課渡による所得については、日英租税条約により日本の租税を免除されるものというべきである。

3  原告は、本件株式の譲渡により何らの収益も得ておらず、課税の対象となるべき国内源泉所得がないから、本件処分は取り消されるべきである。

(一) 前記のとおり、日英租税条約九条(2)(d)の規定により日本において租税を課すことが認められているのは、「法人の株式の譲渡から取得する収益」である。ここに「収益」とは「現実の収益」のみを意味し、いわゆるみなし収益を含むものではない。日英租税条約は、資本的資産の譲渡から取得する収益について一般に租税を免除するとしながら、株式の譲渡から取得する収益については例外的に一定の条件を付して課税の対象としているのであるから、右課税権は限定的に解釈すべきである。所得税法五九条一項は、低額譲渡の場合等について、譲渡所得の金額の計算については、譲渡時における価額に相当する金額によって譲渡があったものとみなすと規定しているが、これはあくまでも所得金額の計算方法に関する特例であって、日英租税条約でいう「収益」が何であるかを解釈する上において考慮すべき規定ではない。そして、日英租税条約では単に「収益」とされていたものが、新日英租税条約では「譲渡収益」とされており、「収益」が「現実の収益」を意味することが更に明確化されている。

(二) 以上のように、日英租税条約は、株式の譲渡による現実の収益がある場合に限って、これを国内源泉所得として日本政府の課税を認めているところ、原告は、レメーヤと共に、本件株式を取得価額と同じ一株当たり五〇〇円の価額でブロムバーグ及びブロムレイに譲渡したものであって、本件株式の譲渡により何らの収益も得ていない。したがって、原告には課税の対象となるべき国内源泉所得がないものというべきである。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1(一)  原告の主張1の冒頭部分は争う。原告の主張1の(一)ないし(九)のうち、サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社が昭和三二年一月九日設立され、昭和三五年五月三一日解散したこと、日本娯楽物産株式会社及び日本機械製造株式会社が同年六月三日設立され、日本娯楽物産株式会社が昭和三九年六月一五日日本機械製造株式会社を吸収合併したこと、日本娯楽物産株式会社が昭和四〇年七月一二日ローゼン・エンタープライゼス有限会社を吸収合併したこと、日本娯楽物産株式会社が商号変更により株式会社セガ・エンタープライゼスとなったこと、原告が昭和四〇年一〇月一七日カナダへ移住したこと、及びセガ社が昭和四一年一月一七日及び同年七月一八日株式配当を行ったことは認める。しかし、原告及びレメーヤがブロムバーグ及びブロムレイに対し日本における事業の持分の二分の一を出資額で譲渡する旨のオプションを供与したこと、セガ社の株主名簿が真実の株主及びその持株数を表示しておらず、真実の株主及びその持株数は別表二記載のとおりであること、及び原告がレメーヤの所有株式三九、六〇〇株についてその名義人となり、本件株式の中にはレメーヤの所有株式五七、三八六株が含まれていることは否認する。その余の事実は不知。主張の趣旨は争う。

(二)  原告は、原告及びレメーヤからブロムバーグ及びブロムレイに対し、二人が希望するときはいつでも本件株式を取得価額(券面額)で買い取ることができるというオプションの供与がなされていたと主張するが、オプションという制度は本来英米法下で認められているものであり、当事者も英米国人であり、かつ、行為地も英米国にまたがっていることからして、かかるオプション契約の成立、効力及び方式は、英米法によって決すべきものである。しかるところ、英米法においては、株式譲渡や贈与、更にはこれらに係るオプション契約は、要式契約であり、捺印証書の交付がないかぎり契約として成立し、効力を発しないとされている。原告は、右オプションの供与について、原告からブロムレイに対し昭和四〇年一一月四日付けの書簡が交付されたと主張しているから、オプション契約が成立したとしても、それは右書簡の当事者である原告とブロムレイとの間において成立したのであり、レメーヤ及びブロムバーグは右オプション契約の当事者となり得ないのである。したがって、右オプション契約の実行としての本件株式の譲渡も、原告とブロムレイとの間で行われ、レメーヤ及びブロムバーグは当事者でないというべきである。なお、本件株式の譲渡は一株当たり五〇〇円という、時価より著しく低い価額でなされたもので、実質は贈与というべきであるから、株式の譲渡としての要式のほかに、贈与としての要式の遵守が必要となるのであって、本件株式の譲渡に関しいかなる書面の作成にも関与していないレメーヤ及びブロムバーグは、なおのこと当事者ではないというべきである。

そうだとすれば、昭和四〇年七月二日付けの名義書換の前の段階において、仮に原告及びレメーヤの持株が各七九、二〇〇株であったとしても、二人の持株の二分の一に相当する数の株式を適法にブロムレイに譲渡するための準備行為として、右名義書換の際に、レメーヤの持株の二分の一に相当する三九、六〇〇株が名実ともに原告に譲渡されたものであり、原告は右譲り受けた株式自体とは関係なく、自己の所有株式全体の中から、当初譲渡予定の数の株式をブロムレイに譲渡したものというべきである。したがって、いずれにしても原告の持株は、右の時点で一一八、八〇〇株になったものといわざるを得ない。

仮に、レメーヤと原告との通謀虚儀表示により、レメーヤがブロムレイに譲渡すべき株式三九、六〇〇株を一時原告の名義にしておいたとしても、右両名はこのことを第三者に主張することはできず、第三者との関係では右株式は原告に帰属するものである。また、右株式三九、六〇〇株の譲渡が、原告においてこれをブロムレイに譲渡すべき義務を負う信託的譲渡であり、レメーヤと原告との間においては依然レメーヤの所有権が保有されるものであったとしても、第三者との関係においては所有権は原告に移転しているのである。したがって、いずれにしても、原告は、被告に対し右株式が原告の所有でないことを主張できないのである。

2  原告の主張2は争う。本件は昭和四一年に発生した所得が対象となっているのであるから、本件については、昭和四一年当時施行されていた日英租税条約(昭和三八年条約第二〇号)が適用になるのであり、原告が指摘する新日英租税条約(昭和四五年条約第二三号)が適用になるのではない。そして、日英租税条約には「いずれかの時において」と明記されているのであって、これを「いかなる時においても」と解すべき理由はない。原告が「いかなる時においても」の意味に解すべきとしている英語の「at any time」は、その後に続く「during the taxable year…」と関連して解するとき、「いずれかの時において」となるのであり、そのように解するのが条理上正しい。現に、日本国と英国以外の国との間の租税条約においても、右条項に相当する日本文は、いずれも「いずれかの時において」となっているのである。

3  原告の主張3は争う。「法人の株式の譲渡から取得する収益」は、いわゆるみなし収益を含むものである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三の各一及び二、第三号証ないし第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七号証ないし第一九号証、第二〇号証の一及び二、並びに第二一号証ないし第三六号証

2  証人太田寿満子、同大竹愛、同村重利夫、同福田彊(第一回及び第二回)、同レイモンド・ジェイ・レメーヤ(第一回及び第二回)、同スコット・エフ・ドッテラー、同バート・ビー・ランド、同田中隆雄、同太田薫、同斉藤徹、同三浦照夫、同村上真及び同山本一磨の各証言並びに原告本人尋問の結果

3  乙第一号証の一ないし一五及び第一〇号証の原本の存在及び成立は認める。乙第七号証及び第一一号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし一五、第二号証ないし第四号証、第五号証の一ないし七、第六号証、第七号証、第八号証の一ないし三及び第九号証ないし第一一号証

2  証人島隆治及び同窪田與四郎の各証言

3  甲第一号証、第二号証の一ないし三の各一及び二、第八号証、第九号証、第一五号証、並びに第二四号証ないし第三三号証の成立は不知。甲第一三号証、第一四号証及び第三六号証の原本の存在及び成立は認める。甲第二〇号証の一及び二の原本の存在及び成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  原告の請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  被告の主張は、原告は、昭和四一年七月一八日現在、内国法人たるセガ社の発行済株式総数三〇〇、〇六〇株の約五七%に相当する一七二、一五八株を所有し、同年八月五日に九〇、六七四株、同年一〇月一一日に二四、〇九八株、合計一一四、七七二株(セガ社の発行済株式総数の約三八%に相当)をブロムレイに譲渡したものであり、右株式譲渡による所得は、所得税法一六一条一号、所得税法施行令二八〇条二項四号、同法九条一項一一号ハ及び同施行令二八条の規定により国内源泉所得に該当するから、同法二条一項五号所定の非居住者である原告は、同法五条二項の規定により所得税を納める義務がある、というにある。

被告指摘の所得税法一六一条一号、所得税法施行令二八〇条二項四号、同法九条一項一一号ハ及び同施行令二八条の規定によれば、右一一四、七七二株の本件株式の譲渡による所得が非居住者につき課税の対象となる国内源泉所得に該当するためには、本件株式を譲渡したという原告が、右譲渡の年(昭和四一年)以前三年内のいずれかの時において、セガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有することが必要である。そして、原告において右五〇%以上の株式を所有したかが、本件における第一の争点である。

三  セガ社の発行済株式総数の推移が別表一記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。また、セガ社の株主名簿に記載された株主及びその持株数の推移が別表一記載のとおりであることについても当事者間に争いがなく、右株主名簿の記載によれば、原告は、昭和四〇年七月二日から昭和四一年八月五日の名義書換までの間において、セガ社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有していたことになるが、被告が右株主名簿の記載は真実の株主及びその持株数を表示したものであると主張するのに対し、原告は、右株主名簿の記載は真実の株主及びその持株数を表示したものではなく、真実の株主及びその持株数は別表二記載のとおりであって、原告がセガ社の株式を五〇%以上所有したことはないと主張する。そこで、セガ社の真実の株主及びその持株数について検討を加えることとする。

四  まず、最初に、別表一に記載された昭和四〇年七月二日付けの名義書換に至るまでの真実の株主及びその持株数について検討する。

1  成立に争いのない甲第三号証ないし第七号証及び甲第二一号証ないし第二三号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一三号証、甲第三六号証及び乙第一号証の一ないし一五、証人福田彊の証言(第二回)によって成立の認められる甲第二号証ないし第三三号証、証人太田寿満子、同福田彊(第一回及び第二回)、同村重敏夫、同バート・ビー・ランド、同大竹愛、同田中隆雄、同斉藤徹、同村上真、同三浦照雄、同太田薫、同窪田與四郎、同山本一磨、同レイモンド・ジェイ・レメーヤ(第一回及び第二回)及び同スコット・エフ・ドッテラーの各証言並びに原告本人尋問の結果に、セガ社の株主名簿上の株主及びその持株数の推移が別表一記載のとおりである事実を併せ考えると、次の事実が認められる。

(一)  ブロムバーグ、その息子ブロムレイ、そしてジェームス・エル・ハンパート(以下「ハンパート」という。)の三人は、アメリカ合衆国ハワイのホノルル市において、パートナーシップ(組合契約)のサービス・ゲームズ・ホノルルを作り、硬貨による作動する娯楽機械の阪売、賃貸等の事業を営んでいた。サービス・ゲームズ・ホノルルは、昭和二三年ころ、原告を販売員として、レメーヤを技師としてそれぞれ雇い入れた。昭和二七年二月一五日ころ、サービス・ゲームズ・ホノルルと原告とは、原告が日本に移住し日本においてサービス・ゲームズ・ホノルルの供給する娯楽機械の販売、賃貸等の事業に従事し、総売上高の一〇%を手数料として取得すること、サービス・ゲームズ・ホノルルは原告に右娯楽機械を供給すること等の契約を締結した。そして、原告とレメーヤは、二人共同で日本における右事業に従事することとなり、同年三月来日した。来日後、原告とレメーヤの二人は、持分各五〇%のパートナーシップによりレメーヤ・アンド・スチュワートの名称で右事業を開始し、サービス・ゲームズ・ホノルルや、ブロムバーグ、ブロムレイ及びハンパートのもう一つのパートナーシップであるアービング・ブロムバーグ・カンパニィから娯楽機械を仕入れ、これを日本で販売、賃貸しだ。昭和二八年九月ころ、原告、レメーヤ、ブロムバーグ、ブロムレイ及びハンパートの五人は、娯楽機械の事業を極東その他で更に拡大するための組織を作ることを合意し、四月一四日、パナマ共和国の法律に従い、株式会社であるサービス・ゲームズ・インク・パナマをパナマ市に設立し、五人が各二〇%の株式を所有する株主となった。そして、サービス・ゲームズ・インク・パナマは、娯楽機械及び関連商品を横浜の保税倉庫まで出荷し、レメーヤ・アンド・スチュワートは、これを日本はじめ極東の国々で販売、賃貸し、総売上高の一〇%を手数料として取得すること等が合意された。

(二)  原告及びレメーヤのパートナーシップによる事業は拡大し、娯楽機械の製造も開始するようになって、二人は会社組織に変えるのが得策と考え、各五〇%の出資で昭和三二年一月九日サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社を設立した(右設立自体については、当事者間に争いがない。)その後、ドッテラーが同社に雇い入れられたが、同人は極めて有能であることが判明したため、原告及びレメーヤは、同人を同社に引き止める手段として、昭和三三年ころ、各持株の中から発行済株式総数の五%に相当する数の株式をドッテラーにそれぞれ譲渡した。その結果、同社の株式は、原告及びレメーヤが各四五%を、ドッテラーが一〇%を所有することになった。

(三)  原告、レメーヤ及びドッテラーは、サービス・ゲームズ・ジャパン株式会社の事業の拡大に伴い、販売部門と製造部門を分離することを計画し、昭和三五年五月三一日同社を解散し、同年六月三日、娯楽機械の販売、賃貸等を目的とする日本娯楽物産株式会社と、娯楽機械の製造等を目的とする日本機械製造株式会社とを、それぞれ資本金九、〇〇〇、〇〇〇円(設立に際して発行する株式一八、〇〇〇株、一株の金額五〇〇円)で設立した(右解散及び設立の事実については、当事者間に争いがない)。もっとも、日本娯楽物産株式会社の場合、定款及び株主名簿には発起人及び設立当初の株主として、原告のほか同社の従業員の氏名が記載されたが、原告以外の右従業員は名義のみの株主であって株式の払込みをしておらず、真実の株主は原告、レメーヤ及びドッテラーであり、その持株数は原告が発行済株式総数の四五%、レメーヤが同じく四五%、ドッテラーが同じく一〇%であった。また、日本機械製造株式会社の場合も、定款には発起人として同社の下請業者の氏名が記載され、株主名簿には設立当初の株主として、右下請業者と同社の従業員の氏名が記載されたが、右従業員は名義のみの株主であって株式の払込みをしておらず、また、右下請業者は、同社の担当者にいわれるまま、株式払込金名目でいったんは一人五〇〇、〇〇〇円を同社に交付したものの、一年以内には返還され、少なくともその後は名義のみの株主となったものであり、真実の株主は原告、レメーヤ及びドッテラーの三人で、その持株数は日本娯楽物産株式会社の場合と同じであった。そして、両社の株券は、株主名簿上の名義人に交付されることなく、右名義人が会社に差し入れていた各自の名義株についての譲渡証書(譲受人及び作成年月日は白紙)とともに、両社から株式事務を委任されていた福田彊弁護士によってすべて保管されていた(同弁護士が発行株券全部を保管するという状態は、後述の合弁によっても変わらず、昭和四三年一二月九日まで続いた。)右のように両社が名義上の株主をおいたのは、設立に関与した税理士から、日本人が株主に加わり、かつ、両社の株主構成が無関係であるようにしておいたほうがよいとすすめられたからであった。

(四)  日本娯楽物産株式会社は、昭和三九年四月二六日増資を行い、また、同年六月一五日日本機械製造株式会社を吸収合併したが、その間名義のみの株主の数は変動したものの、真実の株主は引き続き原告、レメーヤ及びドッテラーの三名だけであり、右三名の持株数の割合も変わらなかった(右吸収合併の事実については、当事者間に争いがない。)

(五)  右合併のころから、原告は、日本における事業から徐々に引退し、家族を伴ってカナダへ移住することを決意するに至り、日本娯楽物産株式会社の株式を証券取引所に上場し、これを換金したいと考えるようになった。そのころ、同じく日本で娯楽機械の事業を営む会社としてローゼン・エンターブライゼス有限会社があったが、同社と日本娯楽物産株式会社とを合併すれば、会社の規模が大きくなって右株式上場の実現にも好都合であり、また、原告に代わる経営者としてローゼン・エンターブライゼス有限会社の経営者であるデビット・ローゼン及びマサ・ローゼンの夫妻を迎えることができるところから、両社の合併の交渉が進められ、昭和四〇年七月一二日日本娯楽物産株式会社がローゼン・エンターブライゼス有限会社を吸収する形で両社の合併が実現し、日本娯楽物産株式会社は、右合併に伴い商号を株式会社セガ・エンターブライゼス(セガ社)と変更した(右吸収合併と商号変更の事実については、当事者間に争いがない。)。

(六)  日本娯楽物産株式会社とローゼン・エンターブライゼス有限会社との右合併に備え、原告、レイメーヤ及びドッテラーは、日本娯楽物産株式会社の株主名簿の記載を実体に合致させることを相談した。この時点における三人の持株数の割合には変化がなく、原告及びレメーヤがそれぞれ七九、二〇〇株(発行済株式総数一七六、〇〇〇株の各四五%)、ドッテラーが一七、六〇〇株(同じく一〇%)を所有していた。そして、昭和四〇年七月二日付けで株主名簿上の名義書換が行われ、従前からの名義のみの株主は一掃されたが、その際、レメーヤの持株のうち半分の三九、六〇〇株が原告の持株に加えられ、株主名簿には原告の持株が一一八、八〇〇株、レメーヤの持株が三九、六〇〇株と記載されるに至った(原告の持株に右三九、六〇〇株が加えられた経緯とその帰属については、後に検討する。)。

2  被告は、セガ社(商号変更前の日本娯楽物産株式会社を含む。以下同じ。)の株主名簿は真実の株主を表示していると主張するが、もしそうであれば、別表一から明らかなとおり、昭和四〇年七月二日付けの名義書換の際、レメーヤ及びドッテラーを除く三四人の株主全員がその所有株式全部を原告に譲渡したことになる。しかし、三四人の株主全員がこの時期に同時に全株式を譲渡するというのも不自然であるうえ、右譲渡が実質的になされたことを示す代金授受関係の資料が何ら存しないのである。また、右名義書換の際、レメーヤ名義の株式中八、四〇〇株及びドッテラー名義の株式中一、四〇〇株が原告名義に書き換えられているが、それが真実の譲渡を表すものとすれば、なぜ右の時点でこれらの株式譲渡がなされたかも説明が困難である。右名義書換に至るまでの株主名簿の記載が実態に符合していなかったと認定してはじめて、右の点の説明が可能であり、前記の会社設立の経緯や別表一に示されたその後の推移にも適合するものといわなければならない。

もっとも、証人島隆治の証言、原本の存在及び成立に争いのない甲第一四号証及び乙第一〇号証、成立に争いのない乙第三号証並びに本件記録によると、次の事実が認められる。

(一)  セガ社の関係者及びセガ社の株式事務を委任されていた福田彊弁護士は、税務職員の調査に際し、セガ社の株主名簿の記載が真実の株主と一致していないことを述べなかった。

(二)  原告も、本件審査請求及び本件訴訟の初期の段階では、株主名簿の記載の真実性について何ら争わず、昭和四九年一〇月二日付けの準備書面で初めて争うに至った。

(三)  株主名簿に株主として記載された太田薫及び三浦照雄が、その所有株式全部を券面額で原告に譲渡する旨の昭和四〇年六月三〇日付けの念書が右当事者間で作成されている。

しかしながら、弁論の全趣旨に照らせば、原告が発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有していたか否かが本件課税上の重要な問題点であるということは、当初は原告はじめセガ社関係者らに十分認識されていなかったかのごとくであるうえ、セガ社が従来から非同族会社として税務申告を行ってきたため、原告や右関係者らが税務当局に対し又は訴訟の初期において株主名簿の記載の真実性について特に言及しなかったということも十分考えられ、また、念書の件については、証人三浦照雄の証言にもあるとおり、昭和四〇年七月二日付けの株主名簿上の名義書換について、税務当局等に対し辻褄を合わせて説明するための資料として作成された可能性が強いものというべく、右掲記の事実は、1の認定の妨げとはならず、他に1の認定を覆すに足る証拠はない。

五  前記のとおり、昭和四〇年七月二日付の株主名簿上の名義書換が企画された段階において、原告及びレメーヤの各持株数は、共に七九、二〇〇株であったが、右名義書換の際にレメーヤの持株のうち二分の一に相当する三九、六〇〇株が原告の持株に加えられ、株主名簿には原告の持株が一一八、八〇〇株、レメーヤの持株が三九、六〇〇株と記載されるに至った。そこで、右名義書換に係る三九、六〇〇株の株式の所有権が実際にレメーヤから原告に譲渡されたものであるか否かについて検討する。

1  前掲乙第三号証、証人バート・ビー・ランドの証言により成立の認められる甲第一号証並びに甲第二号証の一ないし三の各一及び二、同証人及び証人レイモンド・ジェイ・レメーヤ(第一回及び第二回)の各証言、原告本人尋問の結果並びに前記四の1で認定した事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  セガ社は娯楽機械の製造及び輸出を事業の一環とし、一方、ブロムレイは世界各地に娯楽機械の販売網を有するいくつかの会社の代表者を勤めているところ、ブロムレイ又はその代表する会社がセガ社と競争関係に立ち、セガ社の製品と同種のものを製造販売することになれば、セガ社の経営が危機に陥るおそれのあることを考慮し、原告及びレメーヤは、ブロムレイがセガ社と競争関係になることなく、むしろセガ社の株主となってセガ社の経営を援助してくれることを願い、ブロムレイに対し、二人の持株の各二分の一を券面額で買い取るよう勧誘してきた。

(二)  昭和三九年に入り、セガ社とローゼン・エンタープライゼス有限会社との合併の折衝が始まったのを一つの契機として、ブロムレイから原告及びレメーヤに対し、右株式を買い取る用意があり、正式に契約したい旨の意向が伝えられた。

(三)  ところで、ブロムレイのような非居住者に内国法人の株式を譲渡するには、外国為替及び外国貿易管理法三一条の規定により大蔵大臣の許可を必要とするところ、同許可を得ることは容易でないこと、しかし非居住者から非居住者への譲渡であれば右許可が不要であるところから、原告とレメーヤは、昭和四〇年七月二日付けの株主名簿上の名義書換に際し、レメーヤからブロムレイへの譲渡予定の数の株式を、株主名簿の上だけで、近くカナダへ移住し非居住者となる予定の原告の名義にしておき、右株式については原告が非居住者となった後に原告からブロムレイに譲渡する形をとることとした。かくして、セガ社の株主名簿には、右同日付けで、原告の持株が一一八、八〇〇株(本来の持株七九、二〇〇株にレメーヤがブロムレイに譲渡する予定の三九、六〇〇株を加えた数)、レメーヤの持株が三九、六〇〇株(本来の持株七九、二〇〇株から原告名義とした三九、六〇〇株を減じた数)と記載されるに至った。しかしながら、レメーヤから原告に対し、右三九、六〇〇株の所有権を真実移転したものではなく、二人の真実の持株は依然各七九、二〇〇株であった。

(四)  原告は、昭和四〇年一〇月一七日カナダに移住し(この点については当事者間に争いがない。)、本人及びレメーヤの代理人という立場で同年一一月四日ブロムレイと会談して前記株式譲渡に関する最終合意に達し、同合意は、原告からブロムレイあての同日付けの書簡に、ブロムレイが同年一二月一八日付けで署名をするという形で書面化され、正式契約として成立した。

(五)  その後、セガ社において株式配当がなされた結果、株主名簿上、昭和四一年一月一七日付けで原告の持株が一三六、〇一二株、レメーヤの持株が四五、三三七株、同年七月一八日付けで原告の持株が一七二、一五八株、レメーヤの持株が五七、三八六株と記載されるに至った(右株式配当の事実については、当事者間に争いがない。)が、二人の真実の持株は、常に同数であり、右株式配当の結果各一一四、七七二株となった。

(六)  そして、原告及びレメーヤは、ブロムレイに対し、前記契約に従い、昭和四一年八月五日及び同年一〇月一一日の二回にわたり、各持株の二分の一、合計一一四、七七二株を譲渡した。

2  被告は、原告とレメーヤの持株が仮に七九、二〇〇株ずつであったにしても、その二分の一をブロムレイに譲渡する準備行為として、昭和四〇年七月二日の株主名簿上の名義書換の際に、レメーヤの持株三九、六〇〇株が真実原告に譲渡されたものであると主張する。

(一)  しかしながら、セガ社の設立日から昭和四三年一二月九日まで、セガ社の発行株券は株主に交付されることなく、セガ社の株式事務を委任されていた福田彊弁護士の許ですべて保管されていたことは、前述のとおりであり、証人福田彊の証言(第二回)によると、レメーヤの右持株三九、六〇〇株について、同人から原告への裏書や、指図による引渡しのなされた事実はないことが認められる。そして、レメーヤと原告との間において、右株式について譲渡証書が作成されたり、譲渡代金が支払われたことをうかがわせる証拠も全く存しないのである。

(二)  もっとも、成立に争いのない乙第五号証の一ないし三及び七、乙第六号証並びに乙第九号証によると、セガ社は、株式上場のための実績作りをねらい、昭和四〇年六月ないし同年一一月の事業年度から初めて配当を行ったが、右配当に際しては株主名簿記載の持株数を基礎とし、右事業年度分の配当として原告に一七、二一二、三三八円(源泉徴収税額二、五八一、八五〇円、株式配当額八、六〇六、〇〇〇円、現金配当額六、〇二四、四八八円)、レメーヤに五、七三七、四四六円(源泉徴収税額五七三、七四四円、株式配当額二、八六八、五〇〇円、現金配当額二、二九五、二〇二円)の配当を行い、同年一二月ないし昭和四一年五月の事業年度の配当として原告に三四、〇〇三、〇〇〇円(源泉徴収税額五、一〇〇、四五〇円、株式配当額一八、〇七三、〇〇〇円、現金配当額一〇、八二九、五五〇円)、レメーヤに一一、三三四、二五〇円(源泉徴収税額一、一三三、四二五円、株式配当額六、〇二四、五〇〇円、現金配当額四、一七六、三二五円)の配当を行い、原告に対する右配当のうち現金配当分については、住友銀行日比谷支店の原告の当座預金口座へ振り込んだことが認められ、この事実は一応被告の主張に添うものといえる。しかし、翻えって考えてみるに、右二事業年度で一株当たり約四三〇円、三九、六〇〇株につき約一七、〇〇〇、〇〇〇円の配当がなされた計算になるが、セガ社の経営の中枢にあったレメーヤとしては、昭和四〇年七月二日の時点においても右配当を当然予想し得たと考えられるところ、もし同人が原告に真実三九、六〇〇株を譲渡したのであれば、同人は右多額の配当を事実上放棄した形となり(この配当を見込んだ価額で右三九、六〇〇株が譲渡されたことをうかがわせる資料は何ら存しない。)、極めて不自然というほかなく、むしろ右配当の事実は1の認定を裏付けるものというべきである。すなわち、右のような多額の配当の予想される時点で、レメーヤが原告に三九、六〇〇株の所有権を単純に譲渡したものとは考え難く、セガ社としては、株式上場のための実績作りとして、株主名簿に忠実な配当の手続を行ったにすぎず、原告とレメーヤとの間においては、配当の清算が予定されていたと認めるのが相当である。

(三)  ところで、前掲乙第五号証の一ないし三によると、(二)で述べた配当のうち、現金配当として支払われた額は、原告分が一六、八五四、〇三八円、レメーヤ分が六、四七一、五二七円であるから、二人の取り分が平等であるとすれば、原告はレメーヤに対して五、一九一、二五五円を支払うべきである。また、前掲甲第二号証の一ないし三の各一及び二によると、原告は一株当たり五〇〇円でブロムレイに譲渡した本件株式一一四、七七二株の代金を受領していることが認められるところ、原告及びレメーヤが本件株式の二分の一ずつの所有者であったとすれば、原告はレメーヤに対し二八、六九三、〇〇〇円を支払うべきである。すなわち、原告はレメーヤに対し合計三三、八八四、二五五円を支払うべきところ、被告はこの支払の事実が明らかになっていないという。しかしながら、成立に争いのない甲第一六号証の一ないし三、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一五号証、証人レイモンド・ジェイ・レメーヤの証言(第二回)及び原告本人尋問の結果によれば、右金額のうち二〇、〇〇〇、〇〇〇円は、デビット・ローゼンに売却された原告の妻名義の不動産の売買代金の一部によって清算されたことが認められる。残りの金額について、右証人は、レメーヤがブロムレイに依頼してロンドンで貴金属を購入し、その代金を原告からブロムレイに支払ってもらうという形で清算したと証言するところ、この証言が裏付証拠を欠くものであることはいなめないが、右証言に対する反証もないのである。

(四)  その他、1の認定を覆すに足る証拠はない。

六  以上述べてきた原告の真実の所有株式数をまとめれば、結局のところ別表二記載のとおりとなる。そして、同表の記載から明らかなとおり、原告は、セガ社設立以来、同社の発行済株式総数の五〇%以上に相当する数の株式を所有したことはないものというべきである。

被告は、レメーヤと原告との間において、前記三九、六〇〇株の株式について真実の譲渡がなかったとしても、通謀虚偽表示による譲渡又は信託的譲渡がなされたとみるべきであり、原告は右株式が原告の所有でないことを第三者たる被告に対し主張し得ない、と主張する。しかし、右株式は、前記五の1で認定したような理由から単に株主名簿上の名義のみを換えたにすぎないものであって、信託的にせよ株式の譲渡そのものがあったと認めることはできないし、また、被告が実態に符合しない右株主名簿の記載を信じたとしても、課税処分という公権力を行使する関係においては、課税庁に与えられた調査権限に基づきあくまでも真実の権利関係に即して処分を行うべきことが要求されるものであり、たやすく私法上の通謀虚偽表示又はこれに準ずる法理に依拠するのは相当でなく、被告の右主張は採用できない。

したがって、本件株式の譲渡による所得を国内源泉所得として、原告に対し課税を行うことは許されないものというべく、本件課税処分はその余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

七  よって、原告の本訴請求は相当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 裁判官 岡光民雄)

別表一 (セガ社の株主名簿上の株主及びその持株数の推移)

〈省略〉

注1 日本娯楽物産株式会社設立の日。

注2 日本娯楽物産株式会社が日本機械製造株式会社を吸収合併した日。

注3 日本娯楽物産株式会社がローゼン・エンタープライゼス有限会社を吸収合併した日。

別表二 (原告主張のセガ社の株主及びその持株数の推移)

〈省略〉

注1 日本娯楽物産株式会社設立の日。

注2 日本娯楽物産株式会社が日本機械製造株式会社を吸収合併した日。

注3 株主名簿を整理した日。

注4 日本娯楽物産株式会社がローゼン・エンタープライゼス有限会社を吸収合併した日。

別表三 (本件株式の評価計算表)(昭和41年8月譲渡分)

〈省略〉

別表四 (本件株式の評価計算表)(昭和41年10月譲渡分)

〈省略〉

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